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武州ゼミナールからの通信
by bushu-semi


武州通信第166号(2009・3/12)

 陽だまりのウッドデッキ。何処から来たのか一匹の猫が気持ち良さげに丸くなる。猫はどんな夢を見るんだろう? 麗らかな 弥生の一日です。

《『三億円事件』の真相?!》の巻

 世紀の完全犯罪といえば、やはり府中『三億円事件』ですよね。昭和43年(1968年) 12月10日午前9時21分~24分のたった3分間に忽然と三億円(現在の約20億円)が消えたのですから…。あれから40年、あの白バイ警官に扮した犯人は今何処で何をしているのでしょう?

 3月7日の『オアシス武州』は、その犯人と関わったことがあると語る冬木健幹さん(86歳)のお話でした。そして、司会は、(かつて僕がアルバイトの講師をしていた塾の経営者であり)冬木さんの友人である坂口貞義先生にお願いしました。お二人の微妙なやり取りが面白く、幾度も笑いが あちこちに…。

 冬木さんのお話をかいつまんで要約すると…、  
 当時冬木さんが小金井で経営していた「多摩電子」という会社に、正木(仮名)と徳山(仮名)という二人の若い男性従業員がいたのですが、どうやら彼らが三億円を強奪した犯人らしいのです。というのも、事件前に二人は、残業と称してバイクを改造し塗装機で白色に塗り、人影のない近くの変電所の辺りに隠していたようなのです。会社にはさまざまな工作機械があり、バイクの改造なんて朝飯前…。そして、事件当日の朝、正木は遅刻し、何食わぬ顔で12時頃に出勤。そんなことから、冬木さんも他の従業員も「どうやらこの二人が怪しい」と、うすうす勘付いていたようです。しかも、その後の二人は(それまでは欠勤や残業が多かったのに)突然きちんと出勤し残業もせず普通に仕事をし始めたのですから、冬木さんの疑いはますます深まります。確かに怪しい。その間にも、警察の捜査員はたびたび訪れ調査したのですが、当日のタイムカードを見ることもなく帰ってしまったと言います。何とも杜撰(ずさん)な捜査ですよね。

 「それにしても、なぜ冬木さん達は警察に二人のことを話さなかったの?」と参加者から質問が…。その問いには、「そんなことをすれば大騒ぎになるし、会社はやっていけなくなるからね、それは言えないよ。それに、従業員だって仲間を売ることになるし、何しろ関わりたくないからね」と…。「そうこうするうちに、正木も徳山も翌年の3月~5月に退社してしまい、正木にはそれ以降会っていないし、徳山とは数回会っただけだよ」とも。とはいえ、冬木さんは、時効後ずいぶん経って、坂口先生の勧めもあり、『府中 三億円事件 俺が真犯人だ』という本を猫屋犬平というペンネームで出版しました。その本を冬木さんの知人が新潟県にいる主犯の正木に手渡したのですが、それでも正木は決して連絡もよこさず、今でも小金井には近寄らないようにしていると言います。かくして冬木さんの確信はいっそう強まったようです。どうやら主犯は今でも新潟県にいるらしい。その後の冬木さんは、真実を暴かれた犯人からの報復を恐れ、外出するときには大きなコリー犬を連れて歩いているのです。

 坂口先生は「犯人を脅迫して3000万円を手にしたと聞いたけれど、その辺りはどう?」と執拗に迫るのですが、冬木さんは「いや私はビタ1円も貰ってなんかいませんよ」と防戦一方。速射砲のように質問する坂口先生、あたかも話の皺(しわ)を伸ばすかのようにのんびり返答する冬木さん。この辺のやり取りが、何やらとぼけていて、まるで掛け合い万歳を聴いているようでした。とにもかくにも40年も前のことですし、話が行ったり来たりで、また曖昧になっている部分もあり、参加した3人の中学三年生などは「???」の連続だったのかも? 何しろ彼らが生まれる25年も前の事件ですしね。まぁ、ちょっと迫り切れなかった感は否めませんが、皆さんも改めてこの事件の不思議さと面白さを満喫できたのではないかと想像します。それに地元の府中・国分寺・小金井が“事件”のそして“お話”の舞台なのですから関心・興味も幾百倍…。

 事の真相は本当のところは分かりません。でも、三億円の3倍の九億円をつぎ込み17万人以上の捜査員を投入しても犯人を特定できなかった事件です。その間に捜査線上に浮かび上がった11万7950人の容疑者は結局全員 「シロ」だったわけで…。となれば、冬木さんのお話の可能性もまんざら否定できそうにもありません。疑問が更なる疑問を生み、不思議な時空を彷徨(さまよ)った数時間でした。

 うーん、やっぱり三億円事件は一筋縄ではいかぬ「昭和史最大のミステリー」ですね。それに何といっても、希代のこの事件は、謎に包まれたままの方が、余韻が残って楽しいのかもしれません。

 (斉藤 悦雄)
by bushu-semi | 2009-03-13 18:52
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