武州ゼミナールからの通信
by bushu-semi


武州通信第160号(2008・7/26)

 秋葉原で起きた通り魔殺人事件(6月8日)から1ヵ月半。この間にも若者の “社会的孤立” “心の孤独” を背景にした事件が多発しているのだが、僕には分からないことばかり。  

《母親と父親》の巻

 このところ卒業生の“出産”や“おめでた”の話が次々と舞い込む。 
 5月には 稲森(旧姓増山)靖子ちゃん(第9期生)が、昨年10月に産まれたばかりの赤ちゃん(美彩ちゃん)を連れて何年振りかで来塾。いやはや靖子ちゃんはすっかり優しいママの顔。こちらの方がドギマギしてしまう。中学生の靖子ちゃん、高校生の靖子ちゃん、大学生の…、就職しての…、結婚しての…、ここにはイメージの一繋がりが描けるのだが、何と言ったらよいのか、ママになった靖子ちゃんだけは何だかどこか違うんだよなぁ? それが僕をドギマギさせる原因みたい。

 今月は、白倉(旧姓小林)亜希ちゃん(第14期生)の出産予定の月である。予定日は思い出せないけれど、もうそろそろ産まれたのかな? あの亜希ちゃんも もうママなんだよね。何だか不思議(失礼!)。

 母親というのは 実に不思議な存在ですね。まぁ少なくとも男の僕からすればの話だけれど…。先日、上遠野(かどの)(旧姓河原崎)宏美ちゃん(第11期生)が親友の田代登志子ちゃん(同期生)と遊びに。 宏美ちゃんは妊娠5ヶ月だと言う。3人で四方山話に花を咲かせている間も、ぷっくり膨れたお腹をずっとさすっている。何だかお腹の赤ちゃんと交信しているみたい。もうすでにお母さんなんだよね。傍らの登志子ちゃんいわく 「男って可哀想だと思わない? 女は絶対に自分の子だと分かるけど、男は自分の子だという保証はないものね。どこのどいつの子だか分かったもんじゃない。疑いだしたらきりがないよね」 と笑う。まぁそれは冗談だとしても、男と女には大きなギャップがあるようには思う。
2人の女性の話を聞きながら、遠い昔の失敗談を思い出す。

 もうかれこれ32年前の娘の誕生物語である。妻は出産のために函館の実家に里帰り。僕は東京に残り、独り暮らしをのんびり楽しんでいた。で、出産の晩は妻の破水の知らせを受け、家で電話を待っていた。ところが、である。待てども待てども電話は沈黙、うっかり僕は居眠りをしてしまったんだな、これが。妻がうんうん苦しんでいるのに、である。何という奴だ。知らせがあったのが夜中の2時頃。僕は寝ぼけた頭で遠くに義父の声を聞く。「産まれたよ」 までは良かったが、電話を切った後 「子どもが男なのか女なのか」 どうしても思い出せないのだ。「まずいぞ これは」と思いつつ、函館に急ぐ。そこで初めて女の子だと知ったのである。本当にお前はドジだよ! まぁ男なんてそんなものさ、と開き直ってみたものの、やっぱりこれはいかんよね。娘よ すまん。

 ところで、病院を訪れて初めて見た光景、それは僕を仰天させた。妻はもうすっかり母の顔で娘を抱いているのである。まるで、ずっとずっと母親であったかのように…。その姿は何だか神々しくさえあった。これがあの妻なのか?と思った。“慈愛とはこういう姿を言うのか?”決してオーバーでなくそう思った。うつけ者の僕だから尚更そう感じたのかもしれない。

 さて、うつけた男はどうやって父親になったのか? よく言われるように、子育てのなかからに相違ない。子どもが僕を見て初めてニコッと笑い、やがては「パパー」とか何とか言って抱きついてくる。こんな些細なことの繰り返しが父親としての自覚を促したのである。なんのことはない、娘や息子が僕を父親に “仕立て上げた” だけなのだ。きっと男の多くはこんなものだろう。だから親としての自覚が足りないと女性から非難される男(僕も?)が出てくるのも無理はない。いやいや、かような男を弁護してはいけない。とはいえ、男と女にはこれほどのギャップがあるらしいのだ。

 母親になった女性は、男性の目には、見え隠れする計り知れない領域を抱え込んでしまった不可解な存在に見える。その後の子育てにおける男親と女親の行き違いのもとは、もうこんなところに芽生えているのかもしれない。

 それはともかく、可愛い美彩ちゃんを優しく胸に抱く靖子ちゃん、もう誕生したのかな?の亜希ちゃん、お腹の子どもに静かに語りかける宏美ちゃん、僕は卒業生の “おめでた” “出産” の報を受けるたびに、何もなかったところに突如出現する「新しい世界」の誕生を想う。そう、産まれるとは「世界」の誕生なのだ。だからこそ、その「新しい世界」を大切にしてやって欲しいと思う。そして、その「世界」を ともに歩み手伝うのが、お母さんでありお父さんに違いない。
                         
(斉藤 悦雄)
by bushu-semi | 2008-07-25 18:01
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