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武州ゼミナールからの通信
by bushu-semi


武州通信第181号(2010 ・ 7/23)

 野球賭博問題で大相撲の世界が揺れています。先の参議院選挙(7/11)民主党の敗北でねじれ国会へ。政治の世界も揺れています。楽しいニュースはサッカー・ワールドカップで日本ベスト16くらいかな? 楽しいニュース、なかなか無いなぁ!! 

《ロマン再び?》の巻

 今日は大暑。新聞を読んでいたら、「霍乱」とは「暑気あたり」のことだ、とのこと。そうか、「鬼の霍乱」は“鬼も暑気あたりする”からきていたんだね。本当に鬼も霍乱しそうな連日の猛暑・酷暑です。

 ムンとくぐもった空気が立ち込める。まだ7月だというのに全身に絡みつくような蒸し暑い陽射し。大人の背丈ほどの蒲の繁みからボーボーとウシガエルの鳴き声が響く。さらに空気が熱くなる。汗を拭きふき野川の水辺を歩く。僕達3人を除いては 人影はほとんど見えない。捕虫網を振り回す小3の成見太朗君。その後ろ姿を見守る太朗君のお母さんと僕。シオカラトンボがホバリングの体勢からスーと蒲の葉へ渡る。

 太朗君は、武州の生徒・成見果歩ちゃん(小6)の弟である。この夏休みの自由研究に「昆虫採集」を選んだのだ。

 晴天の草むらには薄黄色の地に黒い点を配したモンキチョウがゆったりと舞う。何故かメスしか見当たらない。捕虫網が上から被さる。太朗君の小さな手が蝶と三角紙のどちらを優先させようか、と迷っている。見ている僕達は思わず微笑んでしまう。僕も初めて蝶を捕ったとき あんな戸惑いの中にいたんだろうか? 覚えていない感覚なのに何故か懐かしくなる。明るい黄色に彩られたキチョウがせわしなく羽ばたいて通り過ぎる。どこにでもいる蝶なのだが何となく可憐で可愛い蝶である。樹間に入ると汗をかいた身体が少し和らぐのを感じる。そこには太陽の直射する中には現れない昆虫が姿を見せる。真っ黒い羽に緑の金属色の尾をしたハグロトンボがふらふらと飛んでは止まり、またゆったり進んでは止まる。あちらにもこちらにも…。あちらからもこちらからも…。どこからかツマグロヒョウモンのオスが流れるようにやってくる。豹紋(ヒョウモン)というように黄土色の地に豹のような紋様を描いた一見地味なこの蝶は、今から6~7年前にはこの近辺では見られない蝶だった。ところが今では茶色系の蝶を目にしたらほぼこの蝶だといってよいほど繁殖している。ついでに褄黒(ツマグロ)というのはメスの前翅の先端が黒紫色であることからきており、メスはとても綺麗である。残念ながらこの日は、草の陰にひっそり隠れていたのか、太朗君の前にその美を見せることはなかった。

 昆虫採集というのは虫を捕って標本にすることである。確かにそれに偽りはない。しかしそれが高じると標本だけに収まらなくなってくる。つまり、飼育をし始めるのだ。四度の禅定(脱皮)を終えた柚子坊(アゲハの幼虫)が、やがてひし形の動かぬ禅僧(蛹)になり、次に姿を現すときは全く異形の阿羅漢(アゲハチョウ)になる。この誰でも知っている完全変態の姿は、見れば見るほど、経験すればするほど、不思議さが募ってくる。それに飼育の最終段階近くになってその幼虫あるいは蛹が寄生蜂に寄生されているのが分かると、悲しく思うのと同時に、寄生蜂の生態の不思議さにも出合う。ここではその不思議さについて具体的に書けないが、実に神秘的だとしか言いようがないのである。これらを「本能」と言い最近では「遺伝的プログラム」と言うのだが、そこにはこうした言葉に収まりきれない自然の奇知の閃きが漂っている。誰に教わるでもなく元々具わっている遺伝的プログラムの精巧さはあまりにも深遠なのだ。いや、僕はここで殊更“神秘主義”に走ろうというのではない。目の前で繰り広げられるあまりにも不可思議な世界。昆虫のように人間とは掛け離れた生物と少しでも深く付き合うと、生物という存在の不思議さに驚くことがたくさん出てくる。 ふと思う、人間の叡智の及ばない世界、そしてその世界に我々人類も属しているのだ、と。 

 蝶を追う太朗君の姿を見ていると、懐かしさとともに、何故か断ち切ったはずのロマンが伏流水のように噴き出してくる。その晩、成見さんからメールが届く。そこには一枚の写真が添付されていた。太朗君の枕元に並べられた展翅板が太朗君のワクワクしている気持ちを写し出しているような気がしてくる。そうだ、このワクワク感からすべてが始まるのだ。そして、今でも昆虫採集をする子がいることにちょっとした幸せを覚えるのである。教科書やテレビの映像からでは決して得られない自然の神秘を “身”をもって体験する子がまだいることに、小さな喜びを感じるのである。   

(斉藤 悦雄)
by bushu-semi | 2010-08-04 11:40
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