武州ゼミナールからの通信
by bushu-semi


武州通信第176号(2010・ 1/26 )

 今年は2010年、区切りのいい数字に何となく期待したい気分です。2000年代も10年経ち、平成も22年になりました。ついこの間まで平成生まれの生徒なんだ?と感慨深く思っていたのですが、平成のトップバッターは今年22歳になるんですね。うーん、時間の経つのは恐ろしい。

《デジタル感覚とアナログ感覚》の巻

 ピコピコ、ピコピコ、よく動くねぇー、君達の親指。授業前、事務室で中学2年生3人が「モンスターハンター」とかいうゲームをやっている。画面はリアルで、ゲームもずいぶん進化したもんだなぁ、と思わず見入ってしまう。それにしても眼が画像を追っているというより親指が勝手に行動を起こしているように見える。絶え間なくめまぐるしく動き回る彼らの親指を見ていたら、突然“You are all thumbs.”という言葉が浮かんできた。ストレートに訳せば「あなたはすべて親指だ」なのだが、その意味するところは「あなた不器用ね」とか「おまえ要領が悪いよ」になるのだろう。でも、この時はもともとの意味とは逆に、“親指の器用さ”に恐れ入ったのである。戸惑ういとまもなく、ON・OFF・ON・OFFとデジタルに動く親指、これは正に驚嘆に値する。

 デジタルとアナログ、これについてはしばしば考えることがある。確かに今ではデジタルばやりである。デジタル放送、デジタル時計、デジタルカメラ、etc。ともかく、デジタルは最先端の技術であり美しく優秀なのだ。そしてアナログは旧式であり不細工でダサいのだ。どうやらこの感覚は、僕達の日常生活にも反映しているように見える。

 戦後、僕達は消費社会に向けて走り続けてきた。その結果、高度消費社会が実現した、これが現代なのだろう。かくして、人々が求めてきたもの、つまり豊かさが完成したのである。しかし、一抹の不安もあった。「衣食足りて礼節を知る」と “無理やり”思おうとしてきたのかもしれないのだ。物質的に豊かな社会は精神的にも豊かになるはずだ、と。

 消費社会の実現は思わぬ感覚のズレを表面化したのかもしれない。消費者はお客様として扱われ、優遇され、快感を覚える。そこに、 “欲しいか(ON)/要らないか(OFF)” という自分本位のデジタル的反応を拡散させる磁場があるのだろう。何しろ、お客様は神様なのだから…。今の子ども達は、生まれた時からこのように消費者として振る舞い、大切にされ、また、多くの家庭では家事からも解放されている。子ども時代はデジタル的感覚でもそこそこやっていけるのである。

 じゃぁ、アナログ感覚は必要ないのかな? 確かに、恋愛までの期間は、嫌になったら相手を取り替えれば(OFF/ONすれば)問題消失。でも家庭を築くにはそうは問屋が卸さない。ひとたび結婚してしまえば簡単に相手を捨てる(OFFする)わけにはいきません。それに、子育てはデジタルとは最も無縁な世界です。夜泣きする子、むずがる子…、だからといって、子どもをちゃっちゃと取り替えることはできません。それに夫婦の関わりの面倒臭さにも耐えねばなりません。夫婦の片方でもデジタル的感覚が強すぎれば結婚生活を長く継続するのは難しい。きっとどんな家族もアナログ的な修理・修復作業は欠かせないでしょう。仕事もそうですね。上司や同僚との摩擦・不満はその内部で修理・修復しなくては長くは続きません。それはとてもしんどい作業です。

 ここで僕は、「デジタル=我が儘(自己中心的)」、「アナログ=寛容(調和的)」、とあまりに単純化しすぎているのかもしれません。でも、子ども達だけでなく、僕を含め大人達も感覚がデジタル的なものにますます親和的になっているように見えます。デジタル的な気分に慣れてしまった現在、アナログ的な生き方は、放棄(OFF)したくなるほどに本当に大変で面倒臭くストレスを感じるもののようです。もしかしたら非婚・離婚・離職が増えている一因もこんなところにあるのかもしれませんね(もちろん社会的・経済的な要因は軽視できませんが…)。

 とはいえ、やっぱりすべての指が親指(父さん指)だけならきっと不器用で要領を得ないことでしょう。お茶はこぼすし、字も書けないし、身体を洗うことすら大変です。仕事や家庭生活では、母さん(人差し指)、兄さん(中指)、姉さん(薬指)、赤ちゃん(小指)と仲良く楽しく協働することでスムーズに営まれるに違いありません。だから “今でもアナログは幸せへの近道”?

 中学生の目くるめく動き回る親指に “スゴイなぁ”と感嘆しながら、もう一方で、旧式でポンコツでダサい僕は、それとは別のことを考えてしまうのです。これからの世界は、美しくもなく見事でもないアナログ的な生き方にもっと眼を向けたほうが良いのでは? と…。          

 (斉藤 悦雄)

by bushu-semi | 2010-02-01 11:53
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